こんなエンディングも、西武「らしさ」
来季がある。きっとある



3/25 JIHL PlayOff GRAND FINAL MATCH
in サントリー東伏見 19:00 FaceOff
観客数:2949人
0

SEIBU

0 1P 2 4

KOKUDO

0 2P 0
0 3P 2
- OT -
- PS -

◆REPORT◆

前日までの春らしい暖かい日差しは消え、雨の夜となった。
「駐車場でのビールかけは無理だな・・・」リンクを間近に見る駅前に降りたった時、そんな呑気なことを一瞬考えつつ、最終決戦の場へ足を踏み入れた。

「第5戦=優勝戦」「相手はコクド」「平日の東伏見」「雨」「両社見え見えの社員動員で超満員のスタンド」・・・これでもかというくらい去年と同じ条件が揃った。ただ一つ、今年はリンクの外で起きている「激震」があることをを除いては・・・
優勝決定戦という意味合いだけではない「ラストマッチ」を選手も観客も覚悟しているのか、華やかさをみじんも感じさせない張り詰めた空気の中でフェイスオフ。

1ピリ序盤は西武の猛攻。対するコクドは2週間で9戦している疲れがさすがに表れているのか、それとも作戦なのか、自陣ゴール前に張り付いたまま。
そろそろ先制点が欲しいなと思っていた矢先だった。一つのプレーが今日の試合、いや西武最終章の流れを決定づけてしまった。
西武攻撃のターンオーバーからコクド坂田がパックをキープし中央を上がる。しかしフォーローが付いてきていない。
仕方なく(のように見えた)、ブルーライン手前からダスティ目がけて軽く打ち込み。おそらくリバウンドへのラッシュを狙っていたのだろう。
ところがダスティがレガースに当てたパックは前でも横でもなく・・・
力なく後方へとコロコロ転がり、ゴールネットに吸い込まれてしまった。
「・・・・・・・・・・・・!?」
声にならないくらい、あっけない点の取られ方。どう説明されても納得しがたい失点シーン。ダスティのお約束の凡ミス(にしてもよりによってこんな時に・・・)?、それとも坂田のトリックプレー?、あるいは簡単にシュートコースを開けてしまった西武DF陣の油断?・・・とにかく1点ビハインドを背負ってしまった事実は変えようがない。

しかしここですぐ切り替えられれば問題なかった。まだ1点差で45分以上残している。内容も西武圧倒的に優勢。たとえ1ピリ中に同点に追いつけなくても、2ピリ以降に十分期待は持てる展開だったはずだ。
だが先の失点は、私たちが考えているよりもはるかに選手にとっては重かったのだろうか。フェイスオフ直後、明らかに集中力を失っている動きであっという間にパックを奪われ、気が付くとゴール前で2:1の陣形を作られ、今度は「綺麗に」失点してしまった。それは1失点目から、わずか1分足らずの出来事だった。
「ぁあ゛・・・・・」
1失点目の際とはまた違った反応がスタンドを覆った。重たい空気に包まれた。

ポジティブに考えれば、ここまでは去年とは全く逆の展開だったのである意味期待もしていた。
去年は1ピリ終了時点で、逆に西武が2点リード。これをコクドが2ピリに跳ね返し、結局OT勝ちしているのだ。
コクドだからできた芸当なのかもしれないが、そのようなジンクスにもすがりつくしかない状況だった。

期待どおり、2ピリ序盤も再び西武が攻勢。しかし、何か違う・・・。
確かに攻めている。手前サイド(つまり、西武が攻める方)で常に展開し、歓声が沸き続ける。しかし「決定打」まで持っていけない。
攻撃を完全に捨ててまで全員でゴール前に鍵をかけるコクドの前に、ネットを揺らす糸口が見つけられない。このファイナルで最高のパフォーマンスを魅せるGK二瓶次郎にももちろん手こずっていたが、揺さぶりをかけてなんとかオープンネットの状態を作れた時でさえ、コクドDF陣にフィニッシュを潰されるシーンが目立った。
2点差なら守りだけに専念すれば逃げ切れるとコクド側は判断したのだろう。結果的にその戦術はまんまと成功してしまった。事実、時間が経過するにつれ西武がブルーライン内に入ってくる機会は減り、そのうちニュートラルゾーンをパックが行ったりきたりするだけになった。
結局、このピリオドでのコクドのシュート数はわずか1本。しかし、その数字がなんの慰めにもならないほど、悲観的な状況になってきていることを多くのファンは自覚していたことだろう。

3ピリが始まる。この時点ではまだ「最終ピリオド」との呼び方はふさわしくない。ここまでの内容がどうあれ、2点差なら逆転までいかずとも、同点で終える可能性は十分ある。延長があっても勝てばいい。
しかしそうは言っても、目の前で繰り広げられる現実は、悲壮感を多く含んでいた。
攻めるしかない西武、DF1人を残しほぼ全員攻撃のシフト。しかし攻め手がない。そのうちシュートが打てなくなり、パスも繋がらなくなる。
明らかに、疲れきっていた。
前がかりのリスクを突かれ、ターンオーバーから何度もブレイクアウェイのピンチを迎えるようになる。しかし同じく疲れているコクドFW陣、そして1ピリ「あの」プレーの汚名返上といきたいダスティに助けられ、かろうじて追加点は免れている。

残り10分を切る。ここで本当に1点でも入らないと、試合の行方が決まってしまう時間帯。
しかし選手のパフォーマンスに、好転の兆しは見られない。こうなるともう、神がかり的な何か「ミエナイチカラ」が加わるのを祈るしかなかった。もちろん、祈るだけではダメだ。文字通り「奇跡」を信じて、最後の声援、手拍子がフルスロットルでスタンドから送られる。

しかし、そんなスタンドの鼓動が止る時間が、残り5分を切ったところでやってきてしまった。

3ピリ何度目か分からないコクドのブレイクアウェイ、ダスティへ祈りを届ける間もなく、瞬く間に運ばれたパックは手前のゴールネット内で踊らされていた。
勝利を確信して盛り上がるコクド側ベンチ。対照的に辛うじて繋がっていた糸が切れたのだろうか、西武側は呆然と立ち尽くす選手達ばかり・・・。
私も周囲もここからしばらくの時間は放心状態。いつのまにか始めていた6人攻撃にも、声援を送る気力は残っていなかった。
「このままの精神状態で最後の時を迎えるのだろうか・・・」
ぼんやりとした意識の中で、そんなことを考えていた。

ところが皮肉なことに、その直後に喰らったエンプティネットゴールが、私を正気に戻してくれることになった。
この瞬間から、第3ピリオドは文字通り「最終ピリオド」になったのだ。
それを自分自身で確信した時、使命感のようなものに体が包まれた。
「出しつくせ!」
「1点取りにいけ!」

選手へ向け最後の檄を飛ばした。

こうなったら勝敗を度外視してでも、この「最終ピリオド」をできるだけ長く楽しんでいたい・・・そんな願いもふと頭をよぎるようになった。そんな思いとも裏腹に時計は刻一刻と進み、遂にコクド側からカウントダウンが聞こえる時が来た。
自陣に攻め込まれていた西武が大きくパックを出す。無人のリンクを転々と遠ざかっている。カウントダウンは進んでいる。ここで笛。コクド側から大歓声。しかし見上げてみると、時計はまだ残り2秒を指している。アイシングの笛であった。
ところがそれにまだ気づかないコクド側スタンドからは、試合が終了したものと勘違いして黄色の紙吹雪が多数投げ入れられる。
それを見て私は今日始めて、試合中でさえ見せなかった怒りの絶叫を上げた。
まだ、終わってないんだよ!
終わらせたくないんだよ・・・

紙ふぶきの片付け作業のため、妙な空き時間ができてしまった。
またまた皮肉なことに、このインターバルのおかげで「最後の瞬間をどうやって迎えるか」ということを落ち着いて考える余裕ができてしまった。私は目の前のスポットで行われることになる「最後のフェイスオフ」をカメラに収めることに決めた。
レフェリーがスポットに着く。シャッターを切る。すぐファインダーから目を離してリンクを注視する。まだブザーは鳴っていなかった。

今までの人生の中でもっとも長く感じた1秒間が過ぎ、遠くでかすかにブザーを聞いた。


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